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008 「暖房豆知識」(2014年4月号)

バンクーバー近郊の平均的な家庭では、エネルギー使用量の約6割を暖房が占めています。今回は私が考えるところの、お財布にも、そして身体にもやさしい暖房について述べます。

そもそも冷暖房とは屋外の寒暖に左右されないよう、室内の温熱環境を人にとって快適にするためのものです。その場合、第一に考えるべきは断熱、遮熱、気 密、および太陽や風などパッシブな自然の恵みを取り入れた建物そのものの性能ですが、ここでは第二の重要事項である効率のいい暖房について考察します。

人はどういう温熱環境で快適と感じるのでしょうか?室温、湿度、風速、どれが大事なんでしょうか?例えば空気 温度が12℃であっても太陽の下では暖かいのに、18℃あっても曇っていて風が吹いていれば肌寒く感じるように、本当に大事なのはそれらの総合値である体 感なのです。また室内でじっとしている場合の風と言うのもやっかいなもので、通常一方向からの風が毎秒15~20センチメールを越えると、人は不快と感じ 始めるといわれています。それらを客観的に測るためのPMV計(体感温熱環境測定器)というものも存在しますが、通常はエアコンを使って目標とする温度と 湿度に調整することになります。

fraser_1404_01日本では古くから火鉢が使われていましたが、それは古代ギリシャやローマ帝国時代からあった放射暖房と同じ原理に よるものです。空気を暖めるのでなく、人を温める方法です。その後1902年にWillis CarrierがAir-Conditioningを発明して今日に至るまで、100年以上エアコンの時代が続いてきました。とても便利で省エネ化も進ん できたエアコンですが、前述のとおり空気の温度を調節(空調)することが目的なので、あまりよいやり方とは言えません。しかも空気は断熱材に使われるよう に、熱を伝える効率は非常に悪いのです。エアコンで暖房をした場合、その風そのものが不快なだけでなく、空気が乾燥しやすく、さらに上昇気流によって誰も いない天井付近の空気を温めるのに、多くのエネルギーを使っていることになります。そこで古代から使われている放射式暖房が見直されてきています。

前述のとおり人が太陽の暖かさを感じるのは空気温度でなく「放射」によるものです。昔からあった放射による暖房は、直接人の体を暖め、同時に壁や天井、家 具、家そのものを温めて、結果として空気温度も上がります。空気を介さないのでエネルギーも少なくて済み、不快な音もドラフトもありません。本来暖房の役 割は人の体が失った熱量を効率よく補ってあげることであり、空気を暖めることが目的ではないのです。

次の機会に具体的な放射式暖房(Radiant Heating)とはどんなものかお話したいと思います。2015年1月号記事へ>>