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057「仕事場の整理・整頓」(2018年5月号)

私は現在、建物の構造設計事務所で製図の仕事をしています。この仕事を始めるまえは、日本とフィリピン、バンクーバーで合計10年以上、製造業で品質保証、品質管理の仕事をしていました。製造業も建設業も、「ものづくり」という点では共通項がたくさんあります。今回は日本の製造業で基本中の基本とされるある考え方を、建設現場に当てはめるとどうなるのか、考えてみたいと思います。

基本中の基本とされる考え方とは、5S〔読み方:ゴエス〕(意味:整理、整頓、清掃、清潔、躾)です。わたしはどこの現場に行っても、まず無意識のうちに現場がどのぐらい整理整頓されているか、を見てしまいます。これは、製造業では工場をシンプルに、合理的に、清潔に、さらにその状態を常に保つことが基本とされているためです。

5S(整理、整頓、清掃、清潔、躾)とは具体的には、不要なものを作業場に置いていても、それは置き場所をとるだけで何も付加価値を生まないこと。使う道具や材料は手の届くところに簡単に掴みやすいように置くことによって、わざわざ取りに行く手間を省くこと。また道具を使ったら同じ場所に戻すこと。汚れやごみは溜めずにその場で処理することによって、製品への汚染を防ぐこと。さらにこの状態を清掃員ではなく、作業する人たち自身の手によって保つように癖づけることによって「規律を習慣化」し、その他の安全基準なども守る風土を作ることを意味します。

さて、5Sを建設現場に当てはめて考えてみなしょう。例えば、作業には使う予定のない工具が現場に置いてあります。作業者はその工具を避けて歩くために毎回遠回りしています。もしその工具がそこになければ、避けて歩く時間も節約でき、足をぶつけてケガをするリスクも減らせます。ある作業者は巻き尺を使ったあと、ベルトではなく毎回違う場所に置いています。次に使うたびに自分の巻き尺がどこにあるのか、手を止めて探さなければなりません。木くずが散らかったまま仕上げ作業をすればホコリが舞い上がり、きれいに仕上りません。場合によっては仕上げをやり直さなければなりません。さらに現場のリーダーにとって、物がごちゃごちゃしていれば、作業が計画通りいっているのか、なにかトラブルがおきているのか、事故につながるリスクはないのかなど、状況を瞬時に理解して対応するのは難しいでしょう。

このように5Sをおこたると、作業している人の動きにいちいち無駄が生じます。無駄=付加価値を生まない作業にお金を払いたいお客さんはいません。一つ一つは小さなことに思えますが、何度も何人も繰り返し行う動作を合理化することは、長い目で見れば大きな効果を生みます。

5Sは断捨離やミニマリズムと共通するものがあり、「ものづくり」だけでなく日常生活にも当てはめることができます。あなたは家に帰ったら、鍵を失くさないようにいつもドア近くの決まった場所に置きますか?それとも毎回違う場所に置いて探し回っていますか?