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033 「選び方は接し方」 (2016年5月号)

宮城にいる友人が2年ほど前に中古の1軒家を購入した。

探している間に色々と構想を練っていたらしく、やっと見つけた物件は予算の関係上かなり古く、傷んだ畳やふすま等、使用できないものを片っ端から撤去処分していた。

それが一通り終わった時点で業者に頼み内装を一新する予定だったが、時はおりしも復興景気に沸く宮城県、材料費・人件費共に高騰し彼のように小さな物件のお客は取り合ってすらくれない業者も少なくない。それでも懸命な検索で数件候補を見つけ要求するプランをもとに見積り・交渉を続けているがどこも対応がいまひとつで先に進めず困っているとの事で、国は違えど内装・建築設計を生業にする自分のところへ相談をもちかけてきた。

添付されていた書類には予算と要求事項がびっしりと書き込まれていた。

一通り目を通した後、彼とスカイプで話を始めた。予想するまでもなく物件探しから今までの経緯を延々と聴かされ、ようやく落ち着いてきたところで訊ねてみた 「お前にとって一番やる気にさせてくれるお客さんてどんな人だ?」すぐに応えが返ってきた。「そりゃ自分を信用してくれるお客さんに決まってるだろ」。と応えた時点で彼の口調が変わった、次に何を言われるか予想がついた様子だったが自分は助言を始めた。「だったらお前もそうなってみたら良いんじゃない? 自分らの仕事でお前みたいなお客さんが一番やりにくいんだよ、提案の余地無いほどのリストと非現実的な予算で何とかできるだろ的な態度、それでいて一番安いところを探し回ってる」。彼の今までの苦労を考えて短く済ませ、最後にこう付け加えた、「本当に譲れない事だけ言って、後はできる限り黙ってろ」。

去年の暮れに久々に彼から連絡が来た、工事が完了したらしい。

「お前に言われたとおりだったよ、言いたい事我慢して待つのは不安もあった、でも出来上がり見たら想像もしてなかった出来栄えで、細かいところもちゃんと造り込まれてて、よくあの予算でやってくれたなと思う。やっぱりプロはさすがだね」と大喜びしていた。

自分が工事監理をするとき、最初に細かなところまで打合わせをしたら、後は問題が起きた時以外できるだけ何も言わないようにします。職人達のヤル気は上がり、結果としてその方がずっと効率的で、仕上がりも人間関係もうまくいくと長年の経験の中で教わったからです。

デザイナーも工事に携わる職人たちも、専門分野の知識と経験でお客さんを喜ばせたいという気持ちを持って日々仕事をしています。