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044「床暖房について」(2017年4月号)
By 吉武 政治 (Matthew Yoshitake), Cascadia Ecohomes Ltd.
2015年1月号の暖房豆知識(2)の続編で床暖房について考えてみましょう。床暖房は今や新築住宅の暖房の主流であり、その導入コストさえアフォードできるのであれば、誰もが採用したいと思っているのではないでしょうか?
まず床暖房を選ぶ上で必要なのは、全館暖房か部分暖房か、それによって温水式か電気式にするのがよいか決まってきます。ちなみに改装で床暖房を入れる場合は温水式だとかなり大がかりな工事になりますので、部分的な電気式を選ばれることが多いでしょう。電気式は敷設が簡単ですが温水式に比べてランニングコストが高くなり、電磁波の影響も出てきますので、洗面所のような部分暖房として考えるのがよいでしょう。
全館暖房にする場合は通常全体の床面積の70%くらいの面積に敷設することが必要で、温水式がお勧めです。その場合熱源はガスボイラーがほとんどですが、実際にはそれほど高い温度が必要ないので、温水を作れるヒートポンプを選ぶのが一番効率的です。ただ日本でポピュラーなこの方法も残念ながら北米では一般的に普及していないので、ちょうどよいサイズの高効率ヒートポンプを探すのが困難です。
床暖房では温水循環管が床下に埋設されるため、その熱量をいかに失わず室内に取り込むかということがとても大切になります。その場合のポイントは、床下の温水循環管からの下(地面)方向への熱損失を最小限にすること。そのためにはしっかりとした断熱と遮熱が必須となります。そしてさらに温水からの熱を素早く効率よく室内に伝える熱伝導率の高い床材の選定がとても重要になります。その点陶器やセラミックタイル、自然石などが熱容量もあり、適しています。木質フローリングは熱伝導はタイルほどよくありませんが、ある程度熱容量がありその風合いなどから選ばれる場合も多いようです。
ここまで床暖房の効率について述べてきましたが、立ち上がりはファーネスやエアコンに比べて遅いので長時間広範囲を暖房する際に、その快適性と省エネ性が大いに発揮されると言えるでしょう。車で云うと高速道路を長距離走る方が、街中で急発進、急ブレーキを多用するよりも燃費がいいのと似ています。
最後に床暖房と健康について述べたいと思います。ドイツやオーストリア、スイスなどエコロジー建築の盛んなヨーロッパでは、床からの暖房は人体にとって不自然と考えられています。
頭寒足熱が身体によいとされていますが、特にお年寄りにとって血流が足に集まりやすくなり心臓への負担になることが指摘されています。また小さなお子様がいる場合も要注意です。床の表面温度は25℃-30℃くらいが目安ですが、長時間直接皮膚が触れる状態でいるとその部分の温度だけが上昇し低温やけどの可能性も否定できません。小さなお子様は大人よりもより床に近く熱を感じやすくなっていますので、温度は低めに設定された方がよいでしょう。