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023 「Home-away-from-Home」(2015年7月号)
By 伊藤 公久 (Kimi Ito), K. Ito & Associates
建築には様々な用途があり、それぞれに大切な意味が含まれています。
病と闘う子供たちにとって親の看病はかけがえのないものです。しかし、遠距離に生活する家族にとっては決して容易なことではありません。
バンクーバー市にあるBC Children’s Hospital (小児専門病院)の敷地内にRonald McDonald House BC が昨年春に竣工しました。この施設は重病を負った子供達が小児専門病院で治療を受けている期間、遠距離に住む家族が隣接されたRonald McDonald Houseに移り住み、子供と親が治療に専念できるよう配慮した建物です。
Ronald McDonald Houseの歴史は、1973年Philadelphia Eaglesに所属するフットボールプレーヤーの3歳の娘さんがリンパ腺白血病と診断され小児科病院で治療を受けることになりました。両親は娘さんの治療 期間中、病院内の椅子や廊下のベンチで夜を過ごす日々が過ぎました。この現状を見た担当医師はHome-away-from Homeの必要性を強く感じ、病院の近くに施設を探しました。
これをきっかけに、Philadelphia EaglesのチームメートやPhiladelphia市でMcDonald Restaurantを運営するオーナーの協力で病院近くに古い家を購入し、1974年、7寝室を改修して開設したのがRonald McDonald Houseの始まりです。McDonald Restaurantの功績は寄付金だけでは無く、McDonaldのキャラクターであるクラウン(道化師)が子供たちに喜びと希望を与え、そしていつも 前向きな思考と新たなインスピレーションを湧かせる力にあります。
その後NPO法人が設立され、世界各国に280棟を超えるRonal McDonald House (RMH)が完成し、現在家族の養護施設として運営されています。
バンクーバーでは1983年にRMHBCが設立され、既に32周年目を迎えています。多くのボランティア活動によ り絶え間ない友情と愛情が注がれ、子供たちとその家族を支えています。当初のRMHBCには18部屋しかなく、多くの人々を支援することが出来ませんでし たが、完成した新しい施設は、River House、Forest Houseと自然環境との調和を意図して名付けられた家族棟の他に、同じ生活環境に置かれた家族が話し合えるアトリュームや中庭そして子供達の遊び場が用 意されています。延床面積6,880mに、73家族の受け入れが可能になりました。
建物は木質構造で設計され、外壁にはCLT (Cross Laminated Timberランバー材を直角方向に集成した構造パネル)、梁・柱にはパララム材、床や屋根には木質I型根太など数多くのエンジニアウッドが使用されてい ます。サステイナビリティーを目指すカナダの建築コンセプトがここにも活かされています。
施設内のリビングルームは同じ環境に直面する家族同士心の癒しの場として使われ、キッチンではそれぞれの家 庭料理が作られ病床の子供たちに元気を与えます。グローサリーの買い物には無料の車が用意され、ランドリーも電話も無料で使用できます。まるで自分の家に 住んでいる生活環境です。
これこそ、まさに……“Home-away-from-Home”「家から遠く離れても、そこには素晴らしい家庭が待っている」