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015 「庭木を植える」(2014年11月号)

今回のこのコーナーは庭と庭木についてお話したいと思います。

住宅に限らず建築物はそれが完成した時がその一生の中で一番輝かしい姿ではないでしょうか。ある程 度使いこなして建物として機能し始め快適な生活、活動ができるようになってはじめて建物としての存在価値が認められるわけですが、建物自体は時間の経過と ともに輝きを失ってしていきます。

それとは対照的に、庭は完成したときはまだ未熟ですが、時間の経過とともにその姿を成長させていきます。庭に 頼りなげに植えられた庭木は少しずつ地面に根を張って成長していき、それらはやがて家を引き立てるようになり、住む人を楽しませ、安らぎを与える存在に なってきます。建物と違って庭にとっては時間こそが大きな味方なのです。

幸いここバンクーバー周辺は、温暖な気候のため日本で見られる樹木をいたる所で見ることができます。もみ じ、桜を始め数えきれないほどの種類の樹木が公園や住宅の庭で見ることができますが、多くのそれらの木々には日本の名前が付けられているのをご存知でしょ うか。もみじだけでも詳しく分けると、「清流」、「琴の糸」、「浮雲」、「大盃」、「獅子頭」等々数え上げたら限がないほどの日本名がそのままで使われて おります。

毎日のあわただしい生活の営みの中でふっと庭に目をやり、季節の変わりとともに変化する庭木を見てるとすごく心が 癒されるはずです。春の新緑、夏の繁茂、秋の紅葉、そしてすべての葉を落とし冬の寒さに耐えながら来る春を待つ姿、それらの庭木の変化を見てると、季節の 移り、時間の過ぎゆくさまを感じ自然の営みのすばらしさを気づかせてくれます。

家に、畳部屋、炬燵、障子、日本式風呂などを設けて日本の生活を楽しみ懐かしんでおられる方も多いと思いますが、庭にも日本の庭木を植えることで簡単に日本を懐かしみながら生活することが可能になります。

日本庭園は世界中から認められた日本の文化を代表するものの一つですが、実際に日本庭園を造るとなるとそれ相応の費用がかかりますし、そのあとの維持管理にも手間がかかります。

それに比べると、庭木を植えることはわずかの予算があればできます。自宅の庭に最低でも1本、敷地に余裕があれば3本でも4本でも気に入った庭木を植えたいものです。

植栽の際に気をつけなければならないのは、ナーセリィで購入した植木が将来どの程度大きくなるかということ をあらかじめ知っておくことです。時間の経過とともに庭木も成長すると前述しましたが、そのことをちゃんと念頭に置いて庭のデザイン、庭木の配置を考べる きです。そうすれば庭木に関しては、ほとんど手入れをしなくてもその庭木自身であるべき姿に成長してくれるはずです。

多分買ったときは2メートルにもならないようなものでしょうが、10年もすれば5メートルにも6メートルに もあるいはそれ以上になるはずです。窓が塞がれて部屋が暗い、庭が日陰になり芝生が成長しないなどせっかくの庭木が障害物になってしまうことにもなりかね ません。適切な計画とデザインを持って植栽するだけで、後は時間が庭木を成長させてくれるはずです。

ぜひこの冬の間に計画を立てて、来春新しい庭木を植えられてはいかがでしょうか。

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良い例:家からの距離が適度であり、障害物となっていない

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悪い例:植栽が家の外壁に近すぎたため、窓をふさいでしまっている。