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007 「アンティークと言う哲学−古き美しきものと暮らす」(2014年3月号)
By 大岩 俊行 (Toshi Oiwa), Big Rock Homes Ltd.
「Old is good/オールド イズ グッド」 – 私にこの言葉を教えてくれたのはカナディアンだ。車、衣類、ジュエリー、食器など彼らは古きものを愛し、自慢する。ことに家や家具そして調度品に置いては 尚更だ。市場では築100年を越えるヘリテージハウスが当たり前の様に売りに出され、何度も修繕を重ねた傷だらけの家具がインテリアショップのショウウイ ンドウを飾る。驚いた事にそのプライスは価値を落とすどころか、新品を越えプレミアが付く事も珍しくない。オーナー達は口々に家の歴史を語り、週末に行う 改造修理計画を楽しげに話す。
一方、築20年で資産価値がゼロになると言われる日本の住宅。設計士の知識と創造力、大工の経験と匠そして何よりもオーナーの人生最大の夢と買い物が建物 の完成を期に秒単位でその価値を失って行く。投資と言う目的でもその多くが土地のみの価値だけで取引されている。新築を行う人が激少しているというのも頷 ける。
ではこのカナダ人及び欧米人の住宅への考え方は何処から来るのだろう。此処ローアーメインランドで仕事をして いて施主の方々が頻繁に念を押して来るデザインの条件がある。それは「Something BC」、つまり「BC州らしいデザイン」と言うものである。BCらしいデザインとは幾つか条件をあげる事が出来るが、彼らが求めているものは地域の景観に とけ込んで行くと言う事だろう。その後ろに流れる真意はアイデンティティの確保に他ならない。その土地に生まれその土地にあった住宅に暮らしたい。欧米の 人なら誰もが持つ景観観念そしてライフスタイルだ。ここまで考えると見えて来る。その土地に長く生きた家とは正に彼らのアイデンティティの象徴なのだ。日 本人よりも幾らか早く量産と浪費を経験し、それに失望し「真の豊かさ」を見つめた欧米人が持つもの選びの価値観。
ものを愛するとはその後ろに潜むストーリーを愛すると言う事に他ならない。
「この柱は以前、この土地に生えていた松の木をお爺さんが切り倒したものなの」
「サンルームは増築で子供がまだ小さい頃に家族みんなで仕上げたんだ」
「このあたりは昔、オランダ移民の町だった。だからルーフがこの形なんだ」
そんな話を至る所で聞く事が出来る。どのストーリーも家族のメンバーが直接携わったものばかり。その苦労話や裏話を家族はもちろん地域が誇る。そして新しいオーナーがそれを引き継ぎ、新たなるストーリーを付け足して行く。そんな家の価値が下がる訳がない。
今、住宅資材ことに仕上げ材はアンティークブームだ。資材のリサイクルやリクレイムは勿論、新品の製品でさえ古く見せる演出にメーカー側もしのぎを削る。
もしかしたら彼らはもう気が付いているのかも知れない。アンティークになれるものだけを吟味してゆくもの選びの意味を。自然と言う観点で素材の段階から見直して行く。本当のリバイバルとはそう言う事だろう。年を重ねた家は美しい。
アンティークと暮らす。それは面倒をみながら一緒に歳を重ねて行く、欠陥を見守りながら共に生きて行くと言う覚悟に他ならない。これを哲学と呼ばずして何を哲学と呼ぼう。