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073「(続)恩師 ビング・トム氏の3回忌に臨んで」(2019年11月号)
By 本間志のぶ (Shinobu, Honma), Revery Architecture
去る10月4日は、Bing Tomの命日だ。
早いもので3年が経つ。ここで彼から学んだ建築デザインに対する心構えについて、述べてみたい。Bing は、時あるごとに「 私達のやろうとしている建築は、気違い染みた信念と労力を必要としている。」ともらしていた。そんな理念が 反映してか、スタジオ風の事務所は、必要であれば 24/7で使用できるくらいで、彼は情熱の有るスタッフには、信じられないくらい寛容な心を持っていた。
そこで、Bingの優れた才能の一つを述べたい。端的に言うと ” He could bring the best out of you ” 彼には、そういったリ-ダ- としての力があったし、また魅力があった。その例は数え切れない程有る。Surreyに15年前に完成した、Central City SFU もその例である。 2001年に基本設計に入ったのだが、私は木造の構築物を主任として担当した。その中の Galleria の屋根 ( これは、木造の立体的なトラスで、Shopping mall のコンコ-スと SFU の校舎を覆っている屋根) は、このコンプレックスの注目に値する建築コンポ-ネントなのだが、私は毎日のように、スタッフとハンドスケッチをし、全体的なプロポ-ショから detail に至るまで何度も何度も練り直し、私達の周りはトレペと 模型の切れ端の山になった。この作業は、Bingが Okするまで、何ヶ月も続いた。しまいには、それが夢にまで出てくる様になった。そんな状況である時何かの拍子で突然 アイデアが浮かんで来るのだ。
こういった経験は、Surrey City Center SFU にかかわらず、Aberdeen Center, Vancouver Aquarium, Surrey Central Library そして、初期のproject の Chan Center にも、共通している。
さて, もう一つ建築の理念について彼から学んだ事は、建築デザインは、その建築物の建つ敷地と隣接する区画だけに限らず、それを超えた視点、観点又 時間も 10年 20年と言った 単位ではなく、50 とか100年と言う長さで構想しなければ、良い建築、そして町ずくりとは言えないしそれが建築家の役割だ、と言う強い信念である。これは先に述べた「 気狂いじみた信念と労力ーーー」と、一致している。その良い例は、小規模の初期の仕事で Main Street に建つ Sun Sui Wah Restaurant が挙げられる。1995年に完成したのだが、設計が始まる 1993年時分は、地下3階の駐車場を持ちコンクリート造で二階建てのレストランは、その頃の不動産から観てリスクが高く回わりから気狂い扱いされた。今でこそ再開発の計画、そして 建設がどんどん進み、Broadway から33番アべニューまで及んでいる。
ビングには先見の才があった、と言うのも歴史的、社会学的、経済的 そして 政治的な流れに付いて深い理解があったからだ。また、その背後には彼の考えに共鳴し、リスクをおしまずに投資する施主たちがいた事も無視できない。以上に述べた理念は、ビングからの贈り物として、これからの仕事に活かしていこうと思う。