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097「権利の上に眠るべからず」~BC州の住居用賃貸 (2021年12月号)

ノーベル賞のManabe先生が、米国籍取得(=日本籍”喪失”)について、“I don’t want to go back to Japan, because I am not able to live harmoniously.”と言及して笑いを取ったとか。真意はともかく、当地も察しない文化。その逆も期待されないので気楽ですけどね。

さて、この地で賃貸住まいの方も多かろうと思うところ、かくなる「主張の文化」において、生活基盤たる「住」に、《もやもや》している人もいるのではないでしょうか? 鋼メンタルは多分才能ですが知識なら蓄えられます。その一助となるべく筆を執りました (紙面の都合上、家賃値上げ率の政府規制は割愛)。

1) Fixed-term の明渡し特約はもはや無効
2017年11月以前は、fixed-term(固定期間)契約に、満了時の明渡し特約を付けることができました。こうして主導権を大家が握るので店子は困ってましたが、無効になりました。しかも多くの場合、既存の契約にも遡って適用され、特段の合意なく満了した固定期間契約は月極契約に自動移行し、明渡し義務は生じません。固定期間契約は期間中に離脱できず、転貸するか、残余の家賃を払わざるを得ず、不便なこともあります。月極契約の良し悪しはさておき、固定期間契約は同じ内容で更新する必要はなく、月極も選択肢であると知っておきましょう。

2) Standard termと法が勝つ
BC州ではstandard termがRTR(Residential Tenancy Regulation)のschedule(付属書)で細かく規定されています。これに反する契約内容は法的に無効です。またRTA(借家法)の条文を骨抜きするような特約も無効です。契約書雛形RTB-1はこれらを分かりやすく反映してますので、一読すると良いでしょう。ただし、任意(ないし知らずに)にこれらの特約を履行した場合、遡って無効化することは簡単でないため、無効なのを承知で特約を設定してくる大家がいます(やったもん勝ち)。まさにScientia est potentia (知は力)-自分の権利をよく知り、熟慮してそれを行使しましょう。

3) 各種窓口を活用しよう
NPO支援機関としてTRAC(https://tenants.bc.ca/) がありますので、相談してみるのも一案です。州の機関であるTenancy Branch(RTB)でも電話やメールの相談を受け付けています。RTBでは法的拘束力をもつ調停も取り扱っており、それを申し立てることもできますが、それの前段階として、RTBのinformation officerにお願いして、代わりに大家に連絡を取ってもらい、RTAの趣旨について教諭してもらうという制度もあります(違反条文が明確な場合)。大家が常識人ならこれで十分でしょうね。TRAC/RTBとも電話が繋がりにくいですが積極的に利用しましょう–Knock, and the door will be opened to you (Matthews 7:7)。