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099「マラハット スカイウォーク」(2022年02月号)

私の勤務するバンクーバーの構造設計事務所では、一戸建て木造住宅から鉄の開閉式歩道橋まで様々なプロジェクトを幅広く取り扱っています。今回はそのなかから注目の建築材:マス ティンバー(Mass Timber)を主な構造材として使用した展望台をご紹介します。

マス ティンバーとは、複数の木材を組み合わせて強度を向上させた集成材のカテゴリーです。木材はコンクリートに比べ環境に優しいこと、鉄に比べて重さの割りに強度があることから、近年ますます注目される建築材です。また集合材にすることで無垢材がもつデメリットを克服しています。

この2021年に完成したばかりの展望台は「マラハット スカイウォーク Malahat SkyWalk」と呼ばれ、バンクーバー島の南部、ヴィクトリア市街から40分ほど車で走ったSalish Seaを望む高台にあります。さてみなさんは木材でできた展望台と聞いて、高さ何メートルを想像しますか?なんとこの木製展望台は高さ地上32メートル(ビル約10階ほどに相当)です。

まず車を停めて最初に見えるのはビジターセンターです。カフェやレストランが入るこの建物にもマス ティンバーが使われています。そしてここから展望台までツリーウォークと呼ばれるウッドデッキが続いています。ぜひここで歩道を地上から見上げて、デッキを支えている橋げたの深さと長さにご注目ください。これはグルーラムと呼ばれるマス ティンバーの一つで、集合材だからこそ、これほど大きなサイズの部材が可能になります。

そして木々の間からだんだん展望台が見えてきます。ここから、らせん状の歩道を登ります。登るというより、360度の景色を眺めながらゆったりと歩くように感じられるかもしれません。その理由は車椅子でもアクセシブルな緩やかな傾斜で歩道が設計されているためです。(ツリーウォークも車椅子でもアクセシブルです。)12本あるグルーラムの柱に支えられたらせん歩道を600メートル歩くと、あっという間に海面250メートルの展望台に到着します。

木材にはコンクリートや鉄と比較して、屋外の場合は虫害や雨、湿気による劣化に弱い特性があります。屋内の場合は、見た目が優れているため内装に構造材を露出したままにすることが多いですが、防火性への考慮が必要です。またあまりよく知られていませんが、音を比較的伝えやすいです。これらを克服し、もっと多様でより高くより大きな建築をマス ティンバーで実現できるよう、世界中のエンジニアたちが日々研究、試行錯誤を重ねています。ぜひマラハット スカイウォークを訪れて、マス ティンバー建築を体感してみてください。