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101「The NeverEnding Story – ガラスの古くて新しい物語」(2022年04月号)

もう 30 年以上前だが、映画・ネバーエンディングストーリーが、バンクーバーで撮影された。改めて見るに BC Transit 時代の斜め窓のバスが懐かしく、街の風景も印象的だ。なにしろ高層ビルがなく、Waterfront の貨物ヤードから ( 当時出来立ての )BC Place がまる見えなのだ。水晶の林のようにガラス外装の Sky scraper がひしめく今日、想像し難い眺め。「失われない 30 年」の国の活力とは、斯くのごときか……。

先に水晶と言ったが、ガラスの主原料は水晶と同じ物質、二酸化ケイ素 ( 珪砂 ) で、白い砂としてそこら中にある。ごく大雑把にいえば、これを熱で融かして冷やし固めたものがガラスというわけで、白い雪を融かして水にし、冷やして板氷にしたような感じ。表面がツルツルで中身が均質なので、無色透明となる。雪や砂の白さは、光の散乱でそういう「色」になっているだけで、白というのはつまり無色なのだ。

珪砂だけでもガラスは作れるが、めちゃくちゃ加熱しないと融けないので、燃料がもったいないし、ちと面倒くさい。そこで、ソーダ灰というのを混ぜると、融け易くなってやり易い。氷雪に塩を混ぜると厳寒でも融けてしまうのと同じ理屈だ。ただ、この製法だと完成したガラスが水に溶けてしまう ( 水ガラスといって、これはこれで使途がある )。そこで石灰も加える。以上が「まぁまぁな大雑把」さのガラスの説明だ。もっとも、科学のウンチク抜きに大昔から職人達には常識だったのだが。

古くからあるとは言っても、ガラスにはまだまだ謎が残る。「ガラスは固体ではない」との驚きの説すらある。水飴のような感じで、冷凍庫ではカチコチだが、常温ではいつの間にかトロトロになっていて、その境目がはっきりしない、というような趣旨だ。ガラスは割れるから固体だと思われがちだが、このような粘稠 ( ねんちゅう ) な性質も隠し持っている。

実はこれが「水晶の林」にも関係がある。当地であまた建設中のビルを観察すると外縁の柱が少なく、細いことに気付くだろう。今風の高層ビルは骨が内側にあり、外壁はカーテンのようなもの。ビルを支える強度は不要なため、内外を仕切り、しなって歪みも少しは吸収し、比較的軽量なガラスは、「ビルの皮」として重宝なのだ。もちろん背景には研究の蓄積があり、鋭利な破片を生じにくく、軽い割に強度があり、化学的耐久性、防汚性、反射や透過に機能性があるガラスが開発されてきたこともある。

一方、ガラス外装のビルは空調の消費エネルギー、反射光の害が注目される。そこで従来の延長線上の改良の他、反射・透過や色の能動的制御も研究されている。同時に、発電機能や情報表示などの付加価値を目指す方向性もあり、さらには透明化木材やエアロゲル ( 固体の煙 )などのユニークなアプローチもある。Falkor もとい「巨人の肩の上」に立って眺めてみても、どうやらガラスの物語はまだまだ続きそうだ。