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011 「ウエスタン レッド シーダー『生命の木』」(2014年7月号)

fraser_1407_01みなさんはクイーンシャーロット島を訪れた事があるだろうか。驚かされるのはその豊かな深い森である。メインラン ドではもう見る事の出来ない栂の大木が群生し、直径2mを越えるシトカスプルースが空を突いている。その周りにはメープルやアルダーの低木が大木から洩れ る太陽を求め、自分の居場所を見つけている。そんな彼らを圧倒する巨木がいる。ハイダ族が「生命の木」と呼ぶシーダーだ。樹齢500年を優に越えるシー ダーがどっしりとベルボトムの裾を苔のカーペットに腰下ろしている。安定とはこう言う形を言うのだろう。大木達の中、幹に掘り込まれた穴や剥ぎ取られた古 傷を持つものがある。その昔ハイダがトーテムポールやカヌーを作るのに適切な木かテストした傷跡である。ひとつの疑問が出て来る。「なぜシーダーだけなの か?」トーテムポールやカヌーは勿論、ロングハウスと呼ばれる住居もすべてこのシーダーだけが使われる。ハイダを始めとするコーストインディアンは長い歴 史の中から耐水性と耐久性に最も優れた木材がシーダーである事を知っているのだ。家系図を表す家紋のシンボル、トーテムポールも大木を一刀彫したカヌーも その生涯を太陽と雨風に晒される運命にある。松やスプルースの様に簡単に腐ってもらっては困るのだ。シーダーの持つ殺菌性に優れた油と防虫効果のある酸、 そして郡を抜く紫外線の吸収力がそのまま耐久性へと繋がる。

シーダーは日本で「米杉」と訳されている。しかしシーダーは杉ではない。ネズコ科に属するヒノキなのだ。その性質、木肌、木目、使用目的そして美しさはヒ ノキを超える銘木である。事実、樹齢200歳を越える「オールドグロス」と呼ばれる大木が日本へ寺院の高級材料として輸出されている。生息分布の80%が 太平洋沿岸であるBC州のシーダー。カナダに暮らす我々は建築材料としてのシーダーを容易に入手出来る幸運にある。耐水、耐久の特性を生かした外部材とし ての使用は勿論、美しい杢目と高貴な香りを楽しむ内装仕上げ材としても選びたいシーダー。是非とも次のプロジェクトには使用を考えて頂きたい。

今年、ヘリテージハウスを修繕する機会を得た。外壁材は勿論の事、軒を支えるティンバーフレームの大型角材もすべてシーダーが使用されていた。他の材では ここまで長持ちはしていない。「適材適所」を心得た100年前のビルダー達の誇りと匠そしてシーダーの持つ底力を前に私は身の引き締まる想いがした。

ハイダ族の世界観は人が住む地上そして精霊が住む天空、地下(海)そして森で構成されている。それら全てを繋ぐのがシーダーであると言う。輪廻を信じる彼 らは、善人はシーダーに生まれ変わり多くの恵みを人々に与えると信じる。木材は勿論の事、皮や根はブランケットや籠、ロープに葉は煎じて薬となるシー ダー。ハイダがそう考えるのも頷ける。

将来、木の家をお考えなら、もう一歩踏み出して頂き「シーダーの家」と欲張って頂きたい。シーダーの美しくやさしい木肌に触れる時、私たちはスピリチャルに満ちた森そのものに触れている。

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ハイダの彫り師との共同作業で製作したトーテムポール