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012 「森を育てるカナダの木造建築」(2014年8月号)
By 伊藤 公久 (Kimi Ito), K. Ito & Associates
今回は7月号掲載記事に引き続き「木」に触れたいと思います。
表記のタイトルは一見矛盾を感じる読者もおられるかと思います。木造建築の普及と森林を育てることは逆流する、と思われがちです。事実、木造建築には沢山の木材が使用され、多くの樹木が伐採されるからです。
一棟の平均的住宅(240m2)を建設するにはフレーム材そして木質建材などを含めますと約70m3の木材が使用されます。成長した針葉樹ですと約25本 以上となります。成長した一本の木は年間約20kgの二酸化炭素(CO2)を吸収してくれ、人間に必要な酸素を年間二人分以上供給してくれます。森林は大 気汚染を洗浄するだけでは無く、温度上昇を抑制し、地形の浸食を防ぎ、雨水を地下浸透させ地下水を保全する機能を持っています。また、野生動物には欠かせ ない自然環境なのです。地球温暖化に大きな問題をもたらすCO2の削減に、最も費用対効果が高い対策は植林と言われています。
しかし、森林機能を維持・向上を図るには植林や森林火災消火活動などを含め適切な森林管理が必須条件です。BC州における森林伐採可能地域はカルフォルニ ア州とほぼ同じ面積です。年間伐採できる森林面積は全体の1/3以下に規制されています。UBCの研究ではBC州既存の森林容積は100年前より増えてお り、現在行われている森林管理を継続する限りサステイナビリティーは可能であると言われています。但し、そこには莫大な予算が必要とされます。その財源を 補うには木質産業を活性化せねばなりません。木質産業を活性化し雇用を創出することにより、その税収入の財源を確保し自然環境保全への資金導入が可能にな るのです。
木の利用価値は建築資材・建材のみならず、キャビネット、家具、装飾品やペレットなど幅広い用途があります。特に 建築資材の中でも急速に普及が進んでいるのがエンジニアードウッド(木質集成材)です。木特有の収縮、ねじれ、反り、割れ、たわみなどは建築構造材として 大きな欠点とされてきました。しかし、その短所を集成する製法により補正したのがエンジアードウッドです。エンジニアードウッドは木の歩留まり(活用率) をも大きく変えました。今まで端材として価値を失った資材がリサイクルされ集成されることにより価値の高い建材へと生まれ変わるのです。エンジニアード ウッドの開発により中規模な建物は木造建築へと変化しています。
エンジニアードウッド構造材は建物の軽量化を図り、耐震構造への安定性を加え、施工の容易性や設計の柔軟性を増し、建設コストの軽減策につながることから 鉄やコンクリートに変わる建築資材として普及が広まっています。それに加え木の素材を活かした木造建築は省エネ性能に優れ、生活環境に優しく、快適な空間 を演出してくれます。
2009年10月BC州政府は“Wood First Act”を制定し、公共建築物には木質建材の使用を最優先する事を条例化、また翌年2010年には木造集合住宅の階数を6階建まで基準化しました。
主な作品はRichmond Olympic Oval、Squamish Adventure Information、UBC Wood Science Center、Whistler Library。木造建築は地域社会と自然との調和を美しく醸し出し、森林育成に大きく貢献しているのです。