記事・出版物 Articles & Publications リストへ戻る
017 「暖房豆知識2」(2015年1月号)
By 吉武 政治(Matthew Yoshitake), Cascadia Ecohomes Ltd.
前回(2014年4月号)に引き続き効率的な暖房方法についてお話したいと思います。
まず冷暖房の意味とは、屋外の環境にかかわりなく建物内部を快適な温熱環境にすることにあります。そのため冬の暖房ではまずガスや石油、電気などを使って 効率よく熱エネルギーを作り出すことが必要で、さらにそれを人がいる場所に効率よく届けることが大切になります。そしてその熱を外にできるだけ逃がさない ことが、住居の断熱や遮熱、気密の役割になります。
ここでは熱エネルギーを「作る」「運ぶ」「閉じ込める」方法の中でも効率よく「運ぶ」ということについて考 えてみます。まず熱が移動する方法には伝導、対流、放射の3種類があります。直接触って暖かいと感じるのが『伝導』で、その代表は湯たんぽや携帯用カイロ です。これは最も無駄がない方法と言えますが、住居の暖房としてはちょっと不便です。対流は空気や水などの媒体を利用して熱を伝えるもので、日本ではエア コンやファンヒーター、カナダではダクトを通して各部屋の吹き出し口から暖かい風を送り出す方法が一般的です。そしてラジエターのように表面が暖かくなる ものを各部屋に設置する方法が主に放射を利用していると言えます。ではここで質問です。今人気の床暖房はどの方法を使っていると思われるでしょうか?(回 答は一番最後に。)
前回述べたようにいくつかの条件を整えれば、放射を用いた方法が最も効率よく経済的で、人も快適に感じるという データがあります。いくつかの条件の中には建物のサイズ、間取り、性能(窓の種類、断熱)などがありますが、見逃してならないのはラジエターの表面温度が 適温であるということです。古い建物ではラジエターに触ると火傷するほど高温のスチームを利用している場合があり、ラジエターの近くでは顔が火照るほど暑 く離れると寒いという現象が起こります。適温はできるだけ人の体温に近いくらいのあまり高くない温度のことで、それにより壁、天井、床の温度を均一に保つ ことができれば、温度差のない快適な環境になります。これには窓やドアの表面温度も関係してきますので、ご興味があれば表面温度計でいろいろなところを 測ってみると問題点が見えてくるかもしれません。もちろん気流や湿度など、他の条件も体感温度に影響しますので、別途それらを整える必要がありますが、人 の体感温度や快適性が空気温度だけでなく、室内壁などの表面温度に大きく影響されることを覚えておかれるとよいと思います。
さて前述の床暖房の回答は、熱移動3原則のすべてを使っているということになります。足の裏が直接暖かい床に触れているので伝導、床の表面付近で暖められ た空気が上昇気流となって部屋を温めるのが対流、そして床表面の暖かさが壁や天井、人の体などを直接暖めるのが放射によるものと言えます。それらすべてを 駆使しているので効率がよく快適で身体にもよいかといえば、残念ながらその限りではないというのが現実です。これについてはまた次の機会にでもお話したい と思います。
<効率的な暖房方法: 放射式暖房の設置例>