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037 「番外編・新不動産売買課税制度について」 (2016年9月号)

今回、州政府が導入を決めた外国人を対象とした住宅購入に関する新しい課税制度について、既にお聞きになられた方も多いかと思います。

1987年、BC州は購入金額の初めの20万ドルに対し1%、残りの額に対して2%のProperty Transfer Tax(不動産取得税)を課すことを決めました。当時、20万ドル以上の取引は不動産売買全体の約5%のみであり、政府はこれら高額購入者への課税、及び投機目的での購入を抑えるための一時的な措置として実施しました。しかしながら、今日ではバンクバーで20万ドル以下の物件を見つけることが難しく、多くの購入者がその課税対象となっています。

穏やかな気候、自然と調和した美しい街並み。多くの移民や海外投資家を魅了するバンクーバー。近年では最も住みやすい街を決める世界ランキングで3位に選ばれる一方、高騰が続く住宅価格は、最も手頃でない街ランキング3位に選ばれる都市でもあります。同ランキング1位の香港は、2012年より外国人購入者の不動産取得税を15%に、2位のシドニーでは外国人の購入は新築のみ許されており、今年より新たに4%の税金が課されています。そしてここバンクーバーでも、今年の8月2日よりメトロバンクーバー内の居住用不動産を対象に、外国人購入者に対して15%の課税制度が導入されました。以前より、初めの20万ドルに対して1%、これを超える残りの額には2%、200万ドルを超えた部分にはその額の3%の税金が課されていましたが、今後はカナダ市民、または永住権を持たない購入者には更に15%の税金が課されることになります。

今年5月、メトロバンクーバーの月間売買件数が減少の兆しを見せました。6月、7月と下降を続けた市場に追い打ちをかけたこの新たな制度により、州政府は高騰を続ける住宅市場に対して大きな一手を打つ形となりました。メトロバンクーバーの人々は、この州政府の取り組みを概ね好意的に受け止めており、今後の市場の動きに注目しています。その一方で、最大の問題である住宅価格の著しい上昇を抑えるには不十分なのではないかとも感じているようです。

さてここで、この新制度が実際にどの程度の課税額の差を生むか、いくつか例をご紹介いたします。一つ目は、$750,000の新築コンドをカナダ人と外国人が購入した場合を比較します。この場合、カナダ人(自宅として使用)の購入者は$37,500のGSTを支払うことになります。これが外国人となると、$163,000(GST&PTT)の税金が課されます。このように、カナダ人と外国人では課税額にこれだけ大きな差が生じます。

次に、購入時期の違いによる影響を考えてみます。太郎と花子はどちらも日本国籍で、永住権を取得していません。太郎は2014年に200万ドルのプリセールコンドを購入し、2016年春の完成を待っていましたが、工事に遅れが生じ、同年秋の引き渡しとなりました。一方、花子は7月に同額の新築のリセールコンドを購入、すぐに引き渡しとなりました。この場合、引き渡し/決済が今年の秋に延びてしまった太郎は、今回の新しい課税制度の対象になり$438,000(GST&PTT)税金,一方の花子は$38,000(PTT)の税金のみを支払うことになります。ご覧のとおり、新しい課税制度の導入前と後では額にこれだけの差が生じることになります。また太郎のように成約日と引き渡しのタイミングで、当初予定していなかった多額の出費を余儀なくされるケースも考えられます。事実、支払い済みの頭金を捨て、購入をキャンセルした例もあるほどです。

最後は物件所在地の違いにより生じる課税額の差を検証します。ケンとマリは同じ道を挟んだ同額の$600,000の別荘物件を購入。西側に面したケンの物件はラングレー市、東側に面したマリはアボツフォード市。課税対象に入るケンの取得税は$100,000、それに比べ対象外のエリアにある物件を購入したマリの取得税は$10,000。これはエリアを限定した課税システムから生じる問題であり、今後投資家はエリア外の購入を考慮する可能性も多分にあるのではないかという意見も出ています。

今回の外国人を対象とした新たな課税制度は果たして、高騰するバンクーバーの不動産事情をどう変えるのか。価格の暴落が起こることは考えにくいですが、外国人による不動産購入の数が減ることは避けられません。一時的に買いやすくなるローカルバイヤーも長期的に見れば、購入時のコストが増加することは容易に想像できます。しかし世界的にみればこの高騰する住宅価格であっても、まだ投資対象としての魅力は高く、次世代に残したい資産としての不動産の価値は疑いようもありません。常に変動する市場においても、より安定的な価値の増加が見込める資産としても位置づけられる不動産。今後もお客様のニーズに応えながら、最大限のサービスとアドバイスをご提供して参りたいと考えております。