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047「木を知り森を知る – 林産業」(2017年7月号)
By 木元くみ子 (Kumiko Kimoto), 双日カナダ
林業と言えば、日本ではあまり華やかさはない一次産業の印象ですが、ここBC州においては、雇用や税金面においても州経済を支える(支えられている?)一大メジャー産業です。目下、トランプ大統領政権となったアメリカ合衆国とは、NAFTA交渉にも絡み関税問題で荒れています。一方で、アジア等への輸出に注力しようにも、大雪で伐採が進まず十分な供給が得られないといった、天候に左右される資源産業の難しさも抱えています。
私は、日々建築構造材の原材料なる木材と向き合うお仕事をさせて頂いています。今回、住宅建築はじめ生活に大きく関わる林業について、私のお仕事を参考にご紹介させて頂きます。
自然と向き合う仕事ですから、学びに限りはありません。木材の品質ばかりを見ていても務まりません。森を見て、木を見て、河も見ます。今時期の春先から初夏にかけては、内陸からの雪解け水で河の水量が増し、丸太の運搬に数倍もの燃料と時間を要するからです。時には船に乗り、飛行機に乗り検品を務めます。
製材時の立会いも担います。お客様の依頼通り製材を実施する最も重要な任務です。工場についても熟知する必要があり、先日は、アサリ(鋸の刃の先端部分)について確認、私の身長程ある丸鋸の交換作業にも立合いました。まさに“答えは現場にある”のです。
また、木材の仕入れと営業の基礎となるのは、メートル法とインチ法の換算です。一般の長さ、体積、面積のみならず、丸太の容積(scr)、木材の容積(fbm)、Nominal Scale など特有の単位も把握し瞬時に換算、会話が出来る能力が常に試されます。カナダの製材業には、すべてが混在する為です。またオペレーションによっては、貨物船一杯分、トラック一台、コンテナ一本を単位として話をする場面も多くあります。話をする相手と内容により、単位が変わるので、実物と数字の感覚を持つことも問われます。そこに価値(価格)も把握しなくてはならないため、お気楽そうに見えるLumber menの実態は、現場を熟知し、商売を把握し、余裕に振舞えるだけの能力を備えた優秀な人たちなのです。
また、人間一人では、丸太一本運ぶことすら不可能なとおり、何事も一人で成し得られる規模ではないのも林業です。林業に限らないかもしれませんが、いかに関連各社、担当者、情報、知識を集結し連携させられるかが要です。関係者のチームワークと協力が”土台”となり、建築を支える訳です。
近代、金属やコンクリートなど木質資材以外の建築は増加の一途ですが、他の素材が容易に適わないすばらしい利点を木材はもっています。なんといっても、再生可能なことです。広大な自然と共生し、頂いたものを元に戻すサイクルがカナダでは実現可能であり、実際に確立、実行されています。このような視点からも特にBC州は、海岸沿いの温暖な気候、豊かな自然と森に生かされているといっても過言ではありません。
一方、天然資源に乏しく資源輸入国といわれる日本ですが、豊かな森を持つことから林産資源については自給可能な埋蔵量を持つことを意外にも認識されていないそうです。
旅行、留学、お仕事など何かのご縁でカナダにいらっしゃる皆様に、ぜひ林業について関心を持って頂くきっかけとなれば幸いです。