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084 「生活空間」 (2020年11月号)
By 松浦大輔 (Daisuke Matsuura), DM Design Studio
皆さんはほぼ毎日、建築/インテリアに囲まれて生活していると思います。その空間にいると様々な感情が湧いてくるはずです。空間にただ身を置くだけで感情が湧いてくるのはなぜでしょうか?
生活道具としての空間
生活の基本は衣・食・住、それに仕事・勉学や趣味などと続きます。全て大切なものです。建築/インテリアはそれら生活作業をするための道具と考えられます。特に現代では、それらを効率的に行うことが求められます。
しかしながら、それはあくまでも一般的な話です。日本の著名な建築家の安藤忠雄氏の出世作の「住吉の長屋」では、部屋から部屋に移動するとき中庭を通らならない設計になっています。夜中トイレに行きたいとき時に雨が降っていれば、傘をささなければなりません。“効率的で便利な空間が必ずしも豊かな生き方ではない”と言っているのです。その是非は各個人によって分かれるところでしょうが、私自身初めて見学した際、その単純明快さに非常に感銘を受けました。
空間に感動する理由
結局のところ、建築/インテリアに心動かされるのは、その空間をどのように使いたいかという夢や希望のようなものに感動するからでしょう。設計するとき、それらの夢や希望のようなものを一般的に“コンセプト”と表現します。高価で大空間なら必ず素晴らしいというわけではなく、安価で狭い空間などでもそのコンセプトが豊かなら、人はその空間に感動しうるものです。私は、カナダでここ10年間以上インテリア設計のコンセプトを担当しています。最近完成したコンドの供用部では、プールを最上階の端に設置しました。街中に溶け込む様に泳いでリフレッシュしてもらいたいというコンセプトの設計です。設計する際にはその様な仕掛けが大切だと思います。
JapanTownについて
初めてバンクーバーに来た時驚いたのは、JapanTownの荒廃でした。以前ここに日本人街があったことや、街の“こうありたい”という希望や夢がないことに驚きました。それは非常に残念なことに感じます。今後、100年前と同じ姿にすることは難しいかもしれません。
しかし、そこでの生活を失った諸先輩方がみても、多少なりとも喜ばしい街を作ることは現在からでも可能なのではないでしょうか。もし私にもその様なお手伝いができるのならば幸いです。