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090「現代の家は、火のおうち」(2021年05月号)

コロナ禍とはいえど、バンクーバーの建設市況はいやまして勢い付いているようで、忙しく生コンミキサー車が行きかっています。そう、建設といえばコンクリートではないでしょうか。
コンクリートの3原料は、当会のクイズに出てましたが ( かさが大きい順に ) 砂利、砂、セメントです。ちなみに、砂とセメントだけならモルタルと呼び、砂利が入るかどうかの違いだけです。セメントは、ふつう、ポートランドセメントのことを指します。石灰石を中心に、粘土やケイ石といった鉱物を焼いたもの ( クリンカー ) に、石膏を加えて粉にしたものです。子供のころ、Canadian Tire で見かけ、オレゴン州ポートランドで作ってるからと思いこんでましたが ( 笑 )、英国のポートランド島で採れる石に似た風合いの仕上がりになるから、だそう。
セメントはどうやって固まるのでしょう。水和反応といって、水がセメント成分と化学反応して橋渡しのつながりを無数に作りガチガチになるのです。生コン車が忙しくしているわけもこれで、水を入れたが百年目、水和反応が徐々に進んで固まってしまうからです。まさに生もの。そういうことで、コンクリートは濡れて固まるわけで、乾いて固まるのはメインの部分ではないのです。屋外でコンクリートを施工するとき、むしろ晴れてるとマズイこともあるくらいで、少しの雨なら余り問題ないのです。
前報の鉄と異なり、コンクリート ( セメント )に火のイメージは余りないかと思いますが、実は工程上、千数百°Cの熱が必要で、” 土っぽい”割に人類が出している炭酸ガスの 1 割弱はセメント製造に由来します ( 石灰の熱分解による分も含む )。一方、材料が安いという長所があり、加工・労賃・倫理が軽視されがちな戦時では特に注目されます。日本でも、当時はコンクリートアーチ ( 竹筋との噂も? ) が増え、またコンクリート製の船が建造されたこともありました。当地では Powell River 沖に、両大戦時に建造されたコンクリ船が 10 隻ほど、いまも防波用として海に浮いています。
鉄の話が出ましたが、鉄とコンクリートはとても相性がいいのです。どうしてかというと、互いに欠点を補うから。たとえば鉄線は引っ張りには滅法強いですが両端から押せば曲がってしまいますよね。コンクリートは逆で、圧縮には最強ですが、引っ張られたら弱いんです。そこでこのマリアージュは理想形態です。ただ、いくつかの条件はありまして、有名なのは海の砂や砂利を避けること。良く塩抜きしないと鉄筋がやられてしまいますので。東京近辺では多摩川から砂利採取するのが流行した時期があり、いくつかの鉄道路線に名残りがあります。
さて、名コンビの鉄筋コンクリートの建物は、作るときの燃料の量、という切り口では、二重の意味で「火の濃縮エキス」と言えましょう。日本人は新築好きで、何かとぶっ壊して建て替えたがりますが、SDGs の観点からは建物を大切にしてあげてほしいですね。まぁ、こちらでは日本よりは家は長持ちですが ( 当家も築 63 年のアパートです )、コンドとかがこれだけニョキニョキ生えてくると、行く末を考える必要がありそうです。