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106「George Massey Tunnel – 渋滞トンネルのよもやま話」(2022年09月号)
By 高久 英輔 (Eisuke Takahisa), Synergy Semiochemicals Corporation
今回のテーマは、代替わりを控えた GeorgeMassey Tunnel です ( 開通 1959 年 )。バンクーバーと米国方面を結ぶ Hwy99 の渋滞名所ですね。
どうやって作ったのでしょうか。穴を掘り抜いたのではありません。箱型のコンクリート構造物を、浸水しないように両端を臨時にフタして川面を曳航し、川底に掘った溝に沈めて次々つなげる、という方法 ( 沈埋工法 ) で作られています。この工法は、北米では当時前例がありませんでした。ひとくちに「箱を作って」と言っても、その箱ひとつが 18,500 t ありますから、すぐ脇のドライドックで製造する必要があります ( 沁み出る水を懸命に汲み出しつつ )。しかもコンクリ打設は連続的にしないと強度にムラが出てしまいます。各々の箱同士は、ミリ単位で正確に位置を合わせますし、現場は汽水域ですから水深で塩濃度、つまり浮力も変化するという、ハードモード。「川面に送り出して沈める」と口では簡単に言えますが、この1万 t 級のコンクリ製半潜水艦が6つもあったら実際は大変です。作業補助のため王立海軍から当時最新鋭の水中カメラを借りて作業したらしいですし、もはや総力戦です。
ともあれ、諸方面の努力実ってトンネルの深さは浅くて済み、連結した箱の長さは 600 m くらいに収まっています。流域面積 22 万平方 km(日本の面積の 6 割弱 ) の水を集める大河フレーザーの河口、550 m 幅の水が両岸の土手まで一杯に滔々と流れていることを思えば、うまく出来ていると言えるでしょう。ちなみにトンネルの中程は、カナダの車道最低標高地点なのですが、浅さを反映し、実は海面下 22 m しかありません。河口部で標高≒ 0 であるうえ、箱の高さが 7m 強あり、川の水深が 10 ~ 12 m あることを加味すると、トンネルの天井、裏側は数 mの保護用の岩石と堆積シルトを挟んで巨大な水塊なのです。意外な水の近さにスリルを感じませんか?
高速道路の重要性に加えて技術的な挑戦も評価されたのでしょう、女王陛下が来加してオープンさせた、と開通記念碑に記されています ( 除幕の行われた記念碑が今も Deas Island Park の奥にあります )。
工事ゆかりといえば、ドライドックの跡地(「半潜水艦」を送り出すときに水を入れた ) はBC Ferries のドックになっています。コロナで減便していたころ、北口脇から巨大なフェリーが何隻も見えましたが、あれがそれです。あの船たちが平気なのですから、( 浚渫はしているにせよ ) ドックの規模も想像できるというものです。
さて代替わりにあたり、以前は橋になるとされていましたが、最近、新トンネルを建設すると州政府が決定したようです ( こちらも沈埋工法になる予定 )。片側4車線の計8車線となり、また現トンネル ( 自動車専用 ) と異なり、歩行者・自転車用通路も設置されるとのことです。総工費は 41 億 5 千万ドル (4300 億円超 ) というのですから、例によって景気の良い話ですなぁ~。