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096「Alberni by Kengo Kuma 現場見学会」(2021年11月号)
By 西澤弘宣 (Hironobu Nishizawa), Formtect Architecture
最近バンクーバー市内で通り掛かりに目に留まる建築現場といえば、アルバーニ通りとカーデロ通りの交差点に建ち始めた高層ビルではないでしょうか。どの方角から観ても全く異なる様相をみせるこのユニークな建物は日本の建築家、隈研吾氏のデザインされたものです。
現在、9割ほど躯体が出来ており、2021 年の末頃にその姿形の全容が見えてくることでしょう。今回は、10 月初頭に建友会がこの現場の見学会を行った模様をお伝えします。レポーターとして私の見たなり、感じたなり、そして思った事なりを交えてレポートしたいと思います。
現場の向側にビルに挟まれて建つ木造一軒家があり、そこがこの現場の事務所です。まず、ここで現場マネージャーからとても念入りに準備された建物概要のプレゼンテーションをして頂きました。いかにこの工事が難易度が高く、又今までに難航した工事をどう乗り越えてきたか、そして造形的で特異なデザインを現実化させるのにどんな工夫をしてきたかを、スライドを使って熱く語られていました。個人的にはこういった話は好きで深く聞き入っていました。
プレゼンを見ていた時、一つの言葉が頭をよぎりました。「設計は現場から学べ」。駆け出しの頃、先輩からよく言われた言葉です。そして 30 年以上経った今でも、これは有効であると思っています。
下手な設計をすると、現場で職人達に問い詰められます。逆に施工が、設計通りにされていない場合はこちらが詰め寄ります。現場では、時に議論し、時にお互いのアイデアを出し合い問題を解決していきます。ですから現場は実際のスケールで実物を目の前にして、お互いの技量を切磋琢磨する場なのです。この現場もおそらく、そうなのかなという思いが駆け巡りました。
今回の見学会にはそんな仕事や重圧から離れて、現場を純粋に見て感じてそして何かを学べたらという期待のみを持って参加していました。
さて、現場に入れて貰うとすぐに全員、工事用のエレベーターに乗り込み 32 階へ案内されました。そこはまだコンクリートの床を養生する為の鉄柱が林立するフロアで、逆にそれ以外に視界を遮るものはないのでバンクーバーの全景を見渡せる展望台にでも登った様な感覚になりました。この経験は工事中のこの瞬間のみ、これから壁で部屋が仕切られればこうした贅沢な光景は見られないでしょう。
そこからは、階段で移動し、工事が進んだ下層階を案内して貰いました。特殊なカーテンウォール(外壁)の取り付けにも苦心されていることが垣間見えました。そして更に下に降り、基壇部(1階ー4階)の吹き抜部を見て廻りました。そこは柱も床も垂直や水平ではなく、コンクリートの構造物が剥き出しで、その粗々しさの中に美しさを秘めているという現場ならではの空間でした。説明によると最も施工に時間の掛かった場所だそうで、私には時間を忘れて見入ってしまうような魅力満載の場所でした。
苦労を前向きなエネルギーにして働いている良い現場、というのが私が現場スタッフから感じたことろです。完成までまだ先がありそうなので、また機会があれば訪れたい、また苦労話が聞けたら良いと思いながら現場を後にしました。
今回の様子をお伝えするにあたり、文章に加えて見学会の動画を建友会のサイトで公開する予定をしております。ご興味を持たれた方は是非ご覧ください。