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002 「住まい方の意識の変化と選択肢」(2013年10月号)

by Yuichi Watanabe, Architect NCARB

fraser_1310_01このマップは、バンクーバー市内のミリオンダラーハウスの分布図である。4年前の調査時と比べると、黒い点が東へ 東へと侵食してきている。4年前はCambie Street がボーダーラインになっていたものが、今回はすでにMain Street を通り越し、Fraser Street に迫っている。これらの地域に土地をすでに購入している家庭にとってはうれしいニュースだが、若者や、これからマーケットに入っていこうとしている人に とって、状況は難しくなる一方だ。

バンクーバーの住宅平均価格は621,300 ドル、これを平均年収で割った数字は9.5 で、北米で一番高い。それに加え、ここ3年間の賃貸物件の空室率は0.9% と、非常に低い水準になっている。好調な住宅市場を背景に、これまで賃貸アパートは疎かにされてきた。つまり、買うのも借りるのも難しい状況だ。しかし、 いくら高い高いと言ったところで住宅価格はそう簡単には下がらないだろう。こうした状況下、多くの家庭にとって一戸建て購入以外のオプションも考慮に入れ る必要性が出てくる。そしてまた、個人レベルのみでなく行政レベルでも知恵を絞り、対応策を練る必要があるだろう。

では、実際にどのような対応が考えられるだろうか。バンクーバーと同じく土地高に悩まされてきた日本の首都圏では、若い年代で購買意識の変化が見られる。 国土交通白書によると、2007年までの7年間で、20代の若者の車所有率は23%から13%に、40 代の持ち家率は2008 年までの20 年間で66% から57% に下がっている。必要なものをすべて私有するのではなく、公共のものを利用する、あるいはカーシェアリングのように共同利用していく。初めから私有ありき ではなく状況に合わせて公有、共有と選択肢を幅広く持っている。そのひとつの例として、首都圏でのシェアハウス人気が挙げられる。2007 年までの7 年間で、シェアハウスの物件数は10 倍以上になっており、その数は増える一方だ。ソーシャルメディアなどで情報をシェアしてきた世代は、ものをシェアすることにも抵抗を感じない。そしてシェ アをすることによって生まれる新たな人間関係を楽しんでもいるようだ。住宅ローンに縛られず、必要に応じて最適の物件を見つけていく。あるいはまた、畑、 ゲストルーム、ガレージといった、様々なレベルでの共有が考えられるだろう。実際北米でも、Coop やCohousingといった、共有を念頭に計画された住宅が見直され始めている。住まい方にもいろいろなパターンがある。土地高に悩まされるバンクー バーの若者や家庭にとって、賃貸、シェアハウス、Coop など、私有以外の選択肢も充実させていく必要があるだろう。

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