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003 「コンセプト型シェアハウス-住まい方の新たな選択肢」(2013年11月号)

By Yuichi Watanabe, Architect NCARB

先回の記事では、バンクーバーの住宅価格の高騰と、住まい方の選択肢についてレポートした。今回は、日本で若い世 代の社会人を中心に広がりを見せている、新しいタイプのシェアハウスについてレポートしてみたい。バンクーバーも日本の首都圏も、土地高、住宅難という状 況は共通している。特に、まだ住宅市場に入っていない若年層にとっては難しい状況だ。そんな中、最近日本の若者の間で興味深い意識の変化が起こっている。 これまで主流だったワンルームマンションでの一人暮らしに替わる選択肢として、複数の人たちと暮らすシェアハウス人気が広がっているのだ。

バンクーバーにもルームシェアやハウスシェアはあるが、語学生や留学生が比較的安価な滞在先を求めて部屋を 借りるケースが多い。貸す側にとっても、使っていない部屋を貸すことにより住宅ローンの軽減につながる。つまり借りる側も貸す側も経済効率を主な目的とし て、他人と共有生活をしているわけである。しかし、日本で最近広がりを見せている” コンセプト型” シェアハウスでは、その発想を逆転させている。4、5人ほどの若者達がネットなどを介して集まり、一軒家、あるいは広いアパートを借りて共同生活をする。 そこで共有するコンセプトも様々だ。料理好きの集まるハウス、産地直送の有機野菜をシェアするハウス、英語を学びたい人たちが集うハウス、ベンチャー系の 集まる企業家ハウス、コンピューター好きが集まるギークハウス、シングルマザーのためのハウス、動物と一緒に住むハウスなど。さらに新しいアイデアがあれ ば、ネット上で募集をかけて、企画段階から関わることができる。共感する人が集まれば要望に合う物件を見つけて共同生活を始め、人が集まらないアイデアは 自然に淘汰されていく。

これらのシェアハウスでは、どこにいくらで住むかという物件ありきではなく、まず誰とどのように住むのかを考える ことが出発点になっている。つまり経済効率に住まい方を決められるのではなく、自分の希望する人間関係と理想の生活スタイルに基づいて、自主的に住まい方 を選んでいるのだ。誰もいない部屋に帰って一人寂しく食事をする代わりに、共感できる仲間と交流しながら共同生活をする。彼らは、必要なものを自分ですべ て所有するという従来の考え方から、共有できる物は共有し、それによって生まれる人間関係を楽しもうという、より開かれた考え方に移行している。

一人一つのキッチン、お風呂、ランドリー、家電など必要ない。余剰なものは所有せず、シェアできるものはシェアしていく。この姿勢はまた、無駄な資源消費を抑えることにもなり、根本的な意味でのエコであるともいえる。

これら新しいタイプのシェアハウスは、家族ではなく個人を一単位としたコミュニティーを形成している。恐ら くこれからも、社会の基本単位は家族であり続けるだろう。これらの居住形態はあくまでもニッチであり、主流にはなりえないかもしれない。しかしこうしたア イデアが増えていくことによって、人生の各段階における住まい方の選択肢が増え、都市の中でいかに共生するかという問いに対しても多様な選択肢を提供する ことができるだろう。