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006 「私有と共有 – Cohousing という住まい方」(2014年2月号)

By Yuichi Watanabe, Architect NCARB

現代社会において、人の繋がりやコミュニティーの欠如、孤独死の問題がクローズアップされている。家族、親戚がす ぐ近くに住んでいる環境や、日ごろからの親しい近所付き合いなど、昔はあった人間関係が希薄になってきている。これらの問題にひとつの解を提示しているの が、アメリカを中心に広がりをみせている Cohousing というプラニング手法だ。

Cohousing とは、個人住宅の自立性と、共有するコミュニティーのメリットを併せ持つ住まい方である。賃貸ベースの Coop とは異なり、Cohousing の各ユニットは私有に基づき、これらのユニットが共有スペースを囲むようにして配置されている。共有スペースに含められる施設は、それぞれの住人が話し 合って決めるという。例を挙げれば、キッチン、ゲストスイート、オフィススペース、託児所など。その他、リクエストにより住人の会議を経て追加される。

Cohousing の考え方は 50 年ほど前にデンマークで提案され、カルフォルニアの建築家 Charles Durrett により 80 年代から北米でも実践されてきた。これまでに全米で 130 件以上の Cohousing が完成しており、現在バンクーバー市内でも初めてのプロジェクトが E 33rd & Victoria に計画されている。すでに Rezoning Approval が降り、早ければ年内に完成予定だ。

出来上がった設計図をもとに、完成品として購入するコンドミニアムとは異なり、自分の住む場所の計画段階から参加できるのも Cohousing の魅力のひとつである。各ユニットのプライバシーを守りつつ、交流を望む際には共有スペースで交流できることを念頭に、住居がレイアウトされている。買い 手が決まってから計画が進むため、銀行も比較的出資をしやすいというメリットもあるという。そしてプロジェクトの完成後は、住人たちが主体的に運営、管理 をしていく。

子供にとっては、より広い人間関係の中で育っていく環境があり、老後を控えている人にも、いざという時に頼れる若い世代が周りに住んでいてくれるのは心強 い。若い家族にとっても、子供のための共有スペースが含まれているため、自分のユニットにすべてを所有する必要がない。結果的にベットルームの数を減らす ことができ、購入時のコストも比較的抑えられる。これは、すべてを私有でなく部分的に共有することからくるメリットである。

もちろん、Cohousing もすべてが天国というわけではない。シェアすることから来る責任も当然あり、メンバーはコミュニティーに貢献することが期待されている。こうした人間関係 を面倒に感じる人もいることだろう。しかし、住宅を投資物件のみとして捉えるのではなく、自分と家族が暮らしたい住環境と人間関係を優先的に考えていくと いう点で、Cohousing のようなプラニング手法はこれからも各世代にとって有効な選択肢のひとつになっていくだろう。