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009 「バンクーバーの飲み水について」(2014年5月号)

fraser14_05バンクーバーの上水はキャピラノ川に設置されているクリーブランド・ダムやシーモア、コクイットラムのダム等5つ の施設で取水され、浄化処理を施された後、グレーター・バンクーバーのおよそ230万人の人々に向けて給水されています。上水とは下水に対比して呼ばれる 水の種類で、主に飲料水やその他の生活用水、工業用水、一部の農業用水などとして利用されている水です。

バンクーバーの水源の水質はとてもきれいです。ダム等取水施設の集水域は基本的に全て立ち入り禁止となっており、生活排水は混入していません。汚染源とし て考えられるのは域内に生息する野生生物(熊や鹿、コヨーテ等々)の排泄物や死骸などですが、それとて、広大な集水域の中ではあまり問題になりません。 従って、ダムなどの施設から消費先へ放流する時には、沈殿・ろ過とわずかな消毒薬の投入で済ませています。

このことは日本の大都市を貫流する大きな河川と較べてみると、よくわかります。例えば、阪神地方の淀川。流域面積は8,240平方キロメートル、流路延長 は約75キロメートルで、給水区域内の人口は約1,600万人です。淀川水系の上流端は琵琶湖ですが、まずその周辺の住人が使用した後の生活排水が下水処 理されて淀川に放流されます。その下流、つまり京都の人々がそれを取水します。そして浄化処理を施し、生活に利用した後、同じく下水処理をしてまた淀川に 放流します。最後は大阪の人々が同じように取水して浄化処理をして使います。従って上水(飲用水)として使うには、大腸菌除去などのために最低でも 20ppm(≒20mg/l)の塩素を加えて消毒処理をしなければならないという、厳しい規則があります。

一方、バンクーバーでは生活排水の再利用ということはありえず、簡単に言ってしまえば雨水をそのまま使っている、ということになるでしょう。従って、高濃 度の塩素消毒(あるいは紫外線消毒等)は必要ないのです。ただ、豪雨の後などに水道の蛇口から茶色の水が混ざって出てくることがあります。これは強い雨で ダムの斜面が削られ、粒子の細かいシルト質の成分が貯水池に混入し、それがろ過器を通過してしまうために起こるものです。しかし最近ではろ過機能の向上の せいか、こうした現象もあまり見られなくなっています。

そしてもうひとつ。バスタブや洗面台のお湯があたる部分に、青や緑の色素が付着していることがあろうかと思います。これは緑青と呼ばれる銅の酸化物で、い わゆる錆です。正確には塩基性炭酸銅等さまざまな銅塩の混合物です。給湯設備に加工がしやすい銅管を使っている場合などは加熱によって銅イオンが発生しや すく、それが空気中の酸素や石鹸等の残留物と結合して緑青が発生します。これはバンクーバーに限ったことではなく、給湯設備に銅管を使っている場合にはよ く起こります。かつて、緑青は人体にとって猛毒だとする説がありましたが、1960年代に東京大学やその他研究機関での研究で、これは誤りであることが明 らかになりました。古代エジプトのクレオパトラが使っていた、目の周りの青い化粧用色素も緑青の種類ではないかとの研究成果もあるようです。健康の害など をそれほど懸念する必要も無さそうです。

豪雨の後の上水の水質はやや心配ですが、日常的にはバンクーバーの水は、蛇口からそのまま飲めるレベルには十分あると言えます。