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031「バンクーバー・ダウンタウンの開発 / 都市計画」(2016年3月号)

毎年、世界でもっとも住みやすい都市の上位にランクされる街、バンクーバー。多くの自然と高層建築物が調和するダウンタウンはその魅力の一つに挙げられる。

1995年に市議会で承認されて、“A Vision for Vancouver”と呼ばれるバンクーバーの都市計画の中心となるコンセプトは、ダウンタウンが近隣都市にとっての生活、仕事、文化のより中心となるよう、またその安全、環境、交通面を改善することにより、仕事場としてだけではなく、住居としての環境をも高め、“Jobs Close to Home”を実現していこうというものである。この計画に基づき実行されたプロジェクトは、ダウンタウンで既に見ることができるが、その中で興味深い点を下記に挙げたい。

 

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<写真①>

写真①は、ダウンタウンを北側の対岸より撮影したものである。一見無造作に立ち並ぶ高層建築群は、他都市とはあまり変わりがないと思われるかもしれないが、実は、個々の建物の建築面積、容積率、高さ、隣接する建物との間隔、各階の床面積、建物の形状、外壁の材質、色等に至るまで詳細に規制があり、コントロールされている。また、ダウンタウン全体のスカイラインもコントロールされており、より高い建物(50階建程度)は中心部に、そして周辺部分に広がるにしたがい低い建物が配置されている。ダウンタウン全体が、ちょうど山のような形に見えるわけである。

 

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<写真②>

写真②は、“View Corridors”という市による開発規制の一つである。これは、道路端部の両側建物には道路境界からのセットバック距離が他の場所より厳しく決められており、結果、ダウンタウンを碁盤目状に走る道路の端部には景色を遮る建物がなく、“View Corridors”が確保されるかたちとなっている。

 

写真③は、片側3車線の右折車線と直進車線の間に自転車専用車線を設けているダウンタウンの主要道路である。環境によりやさしくをテーマに、自動車中心の交通手段から、公共交通機関、自転車、徒歩をより多く利用するための環境作りの一例である。バンクーバーでは、自転車が車道路肩を走るのは当たり前で、自転車を通勤の手段としている市民も多い。この写真のように自転車専用車線が自動車車線の間に配置されているケースが、いたるところで見られる。

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<写真③>

ダウンタウンでは、現在も住宅開発が盛んに行われている。高密度化政策の影響を受けて、より高層、高級へと変化しているようで、前記規制の中の容積率、建物の高さが、公開空地や建物の緑地化等を増やすことにより緩和されたケースや、隣地の歴史的建築物(教会等)の上空の空中権(Air Space Parcel)を長期リースすることにより自身の建物の容積率を上げて開発されている例等もある。

今後、ダウンタウンでは、世界的に有名な建築家が設計するより特別なプロジェクトが多数計画されており、その中でも、日本の隈研吾氏が設計する1550 Alberni Streetを特に注目したい。